製造物責任

 

 企業責任に関し、民事法の領域で最近話題を集めているのが、製造物責任である。英語の Product liability の頭文字を取ってPL法とマスコミではよく略される。  

 

 例えば、もらったテレビに欠陥があって、その欠陥のために火事を起こして損害が生じたとしよう。 当然、理論的にはテレビを作成したメーカーに責任が生じる。 しかし、民法の不法行為法の過失責任の原則の下では、メーカーを訴えるユーザーの方で、メーカーの過失、欠陥、因果関係といった要件を、具体的に主張・立証しなければならない。 現代の高度に発達した技術、複雑な製造・流通過程を前にして、製品やその製造工程・流通過程に対する知識のない一般の消費者が、これらの要件を実際に証明することは非常に困難である。 かりに、テレビの欠陥があることを証明することができ、その欠陥から事故が生じたことを証明したとしても、欠陥がメーカーの過失に基くことまで証明しなければならないとしたら、メーカーの内部事情を知らない限り、ほとんど不可能であろう。 またもし、火事でテレビが完全に燃えてしまえば、そもそも証拠自体がなくなってしまい、欠陥を証明すること自体不可能となる。

 

(1)大阪地方裁判所平成六年3月29日判決  

 

 テレビから出火し、火事になりほぼ完全に融解してしまった事例で、平成三年三月二九日大阪地方裁判所は、メーカーに責任を認める判決をなした。 判旨は、「・・・製品の流通は、製造者が製品を安全なものであるとして流通に置いたことに対する信頼に支えられているということができる。(信頼責任)・・・製品の製造者は、・・・その安全性を確保すべき高度の注意義務(安全性確保義務)を負うべきであるから、製造者が、右の義務に違反して安全性に欠ける製品を流通に置き、これによって製品の利用者が損害を被った場合には、製造者は利用者に対しその損害を賠償すべき責任、すなわち製造物責任を負う」とし、一般論として、不法行為責任としての製造物責任を認めた。

 

 その上で、現行不法行為法の原則に従い、利用者は、製造者の故意又は過失を立証しなければならないが、製品に欠陥があることが立証された場合には、製造者に過失のあったことが推認されるべきと解すべきとして、製品の欠陥から製造者の過失を推定し、証明責任をユーザーからメーカーに転換した。

 

 利用者の証明責任に関しては、利用時の製品の性状が社会通念上不相当に危険であること(欠陥)、損害の発生、欠陥と損害との間の因果関係をまず立証せねばならず、その前提として、製品の利用方法が合理的利用の範囲内であることを立証しなければならないとした。 しかし、これらのうち欠陥に関しても、テレビ内部が利用者の手の届かないブラックボックスであることを理由に、合理的利用の範囲内で発煙・発火すること自体が不相応に危険と評価でき、テレビには欠陥があるとし、これも推定した。 また、因果関係についても、テレビのから煙が出ているのを目撃した者の証言でこれを認めている。 また、欠陥の存在時期に関しても、流通時ではなく利用時において判断されるとした。

 

 ほとんどすべての証明責任の転換を、現行法の枠内でなした判決であり、非常に注目されたが、メーカー側が上訴しなかったため確定し、上訴審の判断は受けていない。

 

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