知的財産権の現代的問題 2 − 技術の進歩と新しい保護領域の発生

 著作権は個性の発露としての人の思想・感情の創作的表現を保護し、文化の発展を図ることを目的とする。作品の中に個性があることし、他人に模倣をさせないことに権利としての意義がある。模倣を広くかつ長期に渡り禁じても社会に与える影響が少ないことを前提としている。これに対して特許権等は、産業上利用可能な、実用的・技術的性格の強い創作物に与えらる、いわば技術保護法である。従来この区別は、問題はあっても明瞭なものであった。

 しかし、昭和60年著作権法が改正され(昭和61年施行)コンピュータープログラムを著作物とし、昭和61年の改正(昭和62年施行)でデーターベースを著作権法に取り込むことにより、境界が不明瞭なものとなった。産業技術的要素の強いこれらものが、文化の発展に対する寄与を目的とする著作権の領域に規定されたためである。こういった「産業上利用し得る新規な創作についての権利」のことを、産業著作権という。著作権の特定の領域についての工業所有権化とでもいうべき権利である。この意味で、知的財産権を現在の状況で整理し直すと、上図のような形になる。産業著作権の成立で、もはや特許権と産業著作権は明確に区別することができない。

 立法の経緯を見ると、コンピューターソフトウェアー、データーベースの大国であるアメリカの官民一体型戦略的対外通商政策(ガット多国間交渉・二国間交渉・通商関連法規に基く一方的規制の強化)に引きずられた感がないとはいえないが、世界的趨勢でもある。いま、立法自体の当否を別にしても、著作権が無審査・無形式の権利であって、実質的に完全な独占的権利が与えられていることを考えると、権利保護が行き過ぎる可能性がある。つまり知的財産権を用いた市場支配・競争制限行為による経済活動阻害の可能性である。

 特にコンピューター等のニューメディアやソフトウェアに関しては、システム間の互換性、通信の可能性を維持すること(通信プロトコル等の問題)が、今後ますます重要になってくるし、公益的観点から必要となってくる。他方、一企業の私益的観点からみれば、互換性等に関する情報を開示せず(インターフェイス情報等の問題)独占することによって、市場の占有率の拡大独占を図ることができる。

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律である独占禁止法が定められているが、同法23条は知的財産権の行使と認められる行為には、同法が適用されないことを定めている。

 通信とコンピューターが結び付いた第二次コンピューター革命の進展する中、私権保護と合理的な産業競争秩序の維持の問題は、今後ますます大きくなっていくことが予想される。立法・法律解釈に課された新たな問題ということができる。

 

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