裁判所内の情報処理 − 
E-FilingE-Aktenführung


 裁判所の
IT化という意味で,「E-Filing」という言葉が良く使われるようになった。この 「E-Filing」という言葉自 体は司法のみに使われる用語ではなく,電子政府その他で一般的に使われている。元来は「電子データ管理」の意味であり, 電子媒体の記録(E-Record)をどのように保存し,データベースを構成し,利用できるようにするかという問題であ る。もっとも素朴な形態は,膨大な紙の資料をスキャナーで電子的に取り込み,保存のための空間を節約するとともに,容易に検索・再利用できるようにするこ とがこのレベルである。

これが外部に開かれ,税金の申告等「電子申告」のために使われ,普及することにより,「E-Filing」の語が「電子申告」と同義に使われるようになった。裁判所でこの「電子的申立」を認めているのは,アメリカでは約20あるといわれている

 さらにこの言葉は,裁判に関して見ると,電子的に申立てられた記録・文書を管理し,公 判日程を管理し,口頭弁論等を含み裁判記録全体を管理し,判決を電子的に送達するところまでを含む,トータルなケースマネージメントシステムとして使われるようになっている。裁判所のIT 化として挙げられるもの のほとんどを含むシステムの代名詞ともいえる。しかし,本来は,例えば裁判所という組織の効率を上げるための内部のネットワーク化ないしIT化の問題であり,外部に対し て接続を認めるかどうかの問題は別問題である。

中心となるのは,訴 訟記録管理(Docket & Recordだが,訴え等の申立ての受理,公判等の日程管理,文書管理,裁判管理,強制執 行の管理,訴訟資料の管理等の機能の一部ないしすべてを付加することができる
具体的にイメージすると以下のようになる。原告(ないし訴訟代理人)は,裁判所まで出かけることなく,裁判所又はプロバイダ(
ASP)に置かれたサーバにアク セスし,訴えであれば訴状の記載事項が並ぶウェブページ上のフォームに記入する。この記入により訴えが受理されたことになる。訴状は事件番号等が附された 上で,担当裁判官を日程管理ソフトと照合の上決定し,裁判官に転送され,被告(ないし訴訟代理人)に転送される。記入された電子 データはそのまま記録となる。準備書面等も同様の処理がなされ,書面で提出された文書はスキャンまたはPDFの形で電子化された上で, サーバに蓄積される。裁判官を含む事件関係者は,文書のコピーを待つまでもなく,それぞれの資格に基づいてサーバにアクセスすれば,すべての訴訟資料を見 ることができる。各関係者が出廷可能日(ないし可能時間帯)を 登録すれば,口頭弁論・審理・聴聞等が必要な場合,自動的に,あるいは裁判所が時間をした上で,該当者に電子メールが送られる。開かれた口頭弁論・審理・ 聴聞等も,デジタルデータで記録され,サーバに蓄積される。判決は,電子メールで送達されるとともに,判例データベースの一つとしてサーバに記録される。上訴がなされた場合は,事件データはそのまま上訴審へ送信される

 このようなシステムを実現する ことにより,遠隔地から裁判を起こす場合でも,裁判所への出頭を減らすことができ,サーバにあるデジタルデータを,関係者全員が各自の端末から閲覧するこ とができるため,コピーをとる必要もなくなり,公害事件等,訴訟資料が膨大な量になった場合でもその資料の置き場,保管に頭を悩ませる必要はなくなる。ま た,書類の物理的移動がないため,移動に伴う紛失もなくなる。

 反面,ネットワーク上(おそら くは「インターネット上」)で,個人データが飛び交うとともに,ネットワークに繋がったサーバに大量の個人情報が蓄積されることになる。相当程度に高度な ネットワークのセキュリティの確保が必要となる。また,パソコンレベルでは,大手二社のソフトウェアがほとんどの基本ソフト(OS)を占めているが,アプ リケーションソフトの違い,バージョンの違い等で,文書データ間の変換がうまく行かなくなる問題も存在する。

このE-Filingは,「書面」中心の民 事訴訟手続が「電子文書」でも行える制度になっていることが前提になる。




National Center for State Courtsで,アメリカの諸州で行われているプロジェクトの一覧を見ることができる。 http://www.ncsc.dni.us/CSD/Ctarm.htm

・連邦裁判所レベルのCase Management System は,以下を参照。
 http://www.uscourts.gov/cmecf/cmecf.html
 
実際にアクセスすることにより,より内容を把握できると思わ れる。例えば,ミネソタ州の連邦破産裁判所(http://www.mnb.uscourts.gov/)は,かなりの部分を公開している。
ウィンドーズ又はマッキントッシュを利用していれば,下記サイトから
Paper Viewer と呼ばれるソフトをダウンロード,インストールしてシステムを見ることができる。(日本語Windows2000上で,動 作を確認している。) http://www.mnb.uscourts.gov/ers-bin/mnb-651-main.pl 
Case Filing は,ID,パスワードが必要だが,その他は自由に入ることができる。Search Case は適 当な番号を見つけるのに時間がかかるが,例えば,2000年度のCase Number 3256 で一つの破産事件の記録を見ることができる。

ミネソタ連邦破産裁判所では,5人の担当判事の公判日程が公開されている。
 http://www.mnb.uscourts.gov/Calendar/CalSelect2.html

ミネソタの場合,Judge’s Opinions として以下を参照。
 http://www.mnb.uscourts.gov/WebDir/Html/judge_opinions.html

システムの設計次第だが,物理的に上訴審に転送しなくても,残された事件記 録をそのまま利用し,上訴審の担当裁判官等にアクセス権限を与え,その旨記載する形でも可能である。