-「ネット」で学ぶ法律学-

    インターネットは世界最大の百科事典

 最後に、インターネットを利用した法情報の収集について、まとめておこう。

 このテーマだけでも一冊の本ができる位の内容があるが、初心者が使うための導入としてまとめておく。一章で、メールとユニックスコマンドを利用した、ウェブサイト(いわゆるホームページ)ができる前のインターネット利用に簡単に触れたが、これらはウェブサイトに吸収されてきている。また、最近始めた人は、まず、ウェブサイト検索とメールから始めることだろう。この二つを中心に書いていこう。

 できる限り用語を説明しながら書くつもりだが、現にインターネットに接続できていてウェブサイトを閲覧できる読者で、インターネット用語に慣れていない場合は、辞典のサイト(例えば、「アスキーデジタル用語辞典」)を開いていただけると読みやすいと思う。

− サーチエンジン

 まず必要になるのが、膨大な量のウェブサイトを検索するためのウェブサイトである。ポータルサイト(ウェブブラウザを立ち上げたときに表示されるページ)にネットスケープやインターネットエクスプローラを利用している人は、「検索」の用語を入力する場所があり、あまり意識せずに使っている場合も多いが、さまざまなサーチエンジンがある。いちばん有名なものとしては「ヤフー」だろうか。個人的な好みとしては、「google」が一番探し出してくれるようで、よく利用しているが、複数のサーチエンジンを同時に捜してくれるソフトやサイトまである。
「検索エンジン活用レポート」等で、使い方を知ることができる。

  − 辞典・辞書としての利用

 サーチエンジンを使えるようになれば、インターネットをそのまま百科事典として使うことができるようになる。調べたい用語を入れるだけで、その用語が含まれているサイトが表示される。おそらく多すぎるくらいのサイトが表示されるので、複数の用語での絞込検索になれる必要があるだろう。

 また、オンラインの辞典・辞書も充実している。外国語の辞典であれば、無数の無料のサイト(例えば、TravLangブリタニカ・オンライン)があり、有料のものであれば、ブリタニカの百科事典までオンラインで利用することができる。
 大抵の用語は、その国のサーチエンジンで探せば、見つかるだろう。世界中にサイトを持っているサーチエンジン(例えば、Excite )に入れば、簡単に切り替えることができる。
 また、先に挙げたアスキーのデジタル用語辞典のように、さまざまな専門用語、業界用語、さらには方言の辞典まであり、リンク(「ブックマーク」ないし「お気に入り」)しておけば便利だろう。

− オンラインデータベース

 インターネットを利用するようになって、止めてしまったものに新聞の切抜きがある。各新聞社が、過去の記事をデータベース化していて、簡単に検索ができる。地方版も含めて複数の新聞から検索することができ、例えば日経新聞のデータベースなら、日経四誌全部の記事からデータを取ることができる。もっぱらオンラインデータベースのG-Searchから利用しているが、パソコン通信からも利用できる。このG-Searchは有料だが、帝国データバンク信用情報など、利用価値のあるデータベースが充実している。

   また、サイトによっては、いわゆる「クリッピングサービス」を受けることができる。自分の興味のある事柄をキーワードで入れておけば、このキーワードの含まれる記事を複数のニュースソースから自動的に集めてくれる便利なものである。さらに、集めたニュースをメールで送ってくれるサービスもある。

  − 法情報

 10章で指摘したように、日本の公官庁の情報開示は、アメリカと比べると貧弱である。インターネット上の無料の情報を比べると、特に見劣りがする。それでも最近、少しずつではあるが情報が増えてきている。10章末の一覧表にウェブサイトも出ているので、参照してほしい。特に表右側のアメリカのデータは、ほとんどが無料で、非常に利用価値がある。表左側も、同程度に使いやすいものになって欲しいものである。ここに出ていないものを少し補っておこう。

 行政情報に関しては、総務省行政管理局の「電子政府の総合窓口」があり、ここで一括して検索することができる。ただ、使った実感としては、探しているものが見つからない場合、google で再検索した方が良いように思われる。省庁の審議会情報も、まだ単なる概要のものが多いが、資料の付いた充実した情報もみることができるようになってきた。

 国会関係の情報も充実してきている。
 ようやく議案制定された法律も登載されるようになり(注 アドレスは、いずれも衆議院)便利になった。省庁の審議会からたどれば、立法の状況・経緯がかなり分かるようになってきている。

 司法関係も、最高裁が判例の掲載に力を入れるようになり、サイトに判決前文を出すようになっている。判決当日に掲載されたこともあり、話題になった。順次、高等裁判所、地方裁判所へ拡大していく予定と聞いている。

 判例に関しては、TKCのLEX DB INTERNET が唯一のオンラインデータベースになる。有料だが、明治8年以降の民事判例全文を網羅している。

 以上書いてきたデータは従来から書誌で提供されていた情報だが、図書館へ行かなくても机の上のネットワークコンピュータで取ることができるようになったという意味で、非常に便利になった。情報が大都市に集中しがちな日本で、それ以外の場所でもインターネットを使えば容易に情報が取れるようになり、地域格差を埋めることができるようになる。
 今、ほとんどの書籍は国会図書館に入れられている。そして、ほとんどの書籍は印刷前にコンピュータで編集され、磁気情報化している。もしこの印刷前の磁気情報の書籍を国会図書館に納入することにして、国会図書館のサーバから一定の著作権料を支払って、その情報をインターネット経由でダウンロードすることができるようになれば、少なくとも書誌情報に関しては、地域間格差がなくなってしまう。雑誌記事の著作権が一年経ったらなくなるとするドイツの著作権法のような規定を設ければ、少なくともその範囲内で実現可能のようにおもうのだが・・・。

 ここで述べたような法情報は、ほぼすべての先進国で公開されている。細かく上げるときりがないので、大学院レベルの研究で役に立つアメリカ、ドイツ、フランスのサイトを、代表的なものだけ挙げておく。

 アメリカの情報は10章末の表に挙げてあるが、有料のサイトとして West Law、Lexis-Nexisが非常に便利である。無料のものとしては、表に挙げてあるものの中で、コーネル大学のサイトは是非訪れて欲しい。

 ドイツもJurisという充実したオンラインデータベースがあり、大学としてはザールラント大学が一番充実したサイトを作り上げている。フランスはLegifranceがお勧めである。

− 専門家の意見を聞く インターネットの「双方向性」

 空間的な距離を無意味なものにしてしまうインターネットは、世界中のデータを机の上のネットワークコンピュータで取ることを可能にした。

 しかし、いくら情報が充実しても、人から直接に得る情報は、情報開示ないし公開の進んでいない日本では、他では得られない情報が多い。詳しい専門の知人がいれば、その人に電話するなりメールを書くなりすれば、必要な情報を得ることができるが、そうでなくてもインターネットを利用すれば、驚くほど専門家の助けを得ることができる。それが、インターネットの「双方向性」を利用した意見の交換の場である。インターネットで得られる情報の中でも一番価値があると考えている。メーリングリスト、ネットニュース、パソコン通信に触れておこう。

メーリングリスト(ML)

 「インターネットメールを利用して、参加者全員に同じメールを配信するシステム。たとえば参加者のうちのひとりがメーリングリスト宛にメールを出すと、参加者全員にそのメールが配信され、だれかがそのメールに返事を出すと、そのメールも参加者全員に配信される。特定の趣味などをテーマにしたもの、さまざまな研究などをテーマにしたものによく利用されている。(アスキーデジタル用語辞典より)」
 メールの同じ内容を他の人にも送る機能(同報機能)を使って、いわば、ヴァーチャル空間で集まって話しているようなものである。大学では、ゼミの連絡やサークルの連絡、事務から教員への連絡に良く使われる。
 また、特定のサイトで、参加者の間での議論のために利用されることもある。私はインターネット弁護士協議会(ILC)のMLに参加している。あまり発言をしないので、貢献しているとはいえないのだが・・・。
 ちなみに、読むだけで発言しない人のことをROM(Read Only Member)、非常に活発に書き込む人のことをRAM(Random Access Member)と呼ぶ。
 一般に開放されたメーリングリストもある。
 例えば、http://www.dns-ml.co.jp/を覗いてみると、さまざまなMLを見付けることができる。
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ネットニュース

 「世界規模で構築されている電子掲示板システム。全世界にあるニュースサーバが相互に隣接しているサーバに投稿された記事を順に伝えることにより、ある程度の時間をかけて世界中のニュースサーバに送られる。(アスキーデジタル用語辞典より)」
 いわば、全世界に広がる掲示板で、パソコン通信の会議室と同様、同じ興味を持っている人が集まる場所である。相互に意見を交換し、疑問の解決・議論・息抜き等に使われている。使い方のサイトがいろいろあるが、例えば、「超初心者のためのネットニュース入門」に入れば、参加の仕方が良く分かる。

 日本語の大きなニュースグループとしては三グループあり、商用利用ができるか等の違いがある。ネット上あちこちに紹介のサイトがあるが、fj(from Japan)のリストを一つ挙げておく。

 ネットニュースとパソコン通信の会議室との違いは、前者が全世界に開かれたものであるのに対して、パソコン通信の会議室が、会員間の情報交換を目的にするところにある。(私は、データベースの充実に惹かれて@ニフティを利用しているが、そのサービスはフォーラムの会議室以外にも多岐に渡る。
(https://iw.nifty.com/)
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 法律家の目から見て、その中の「法律フォーラム(FLAW FLAWA)」は非常に充実していて、参加する価値の高い場所である。法律相談を受け付ける部屋、雑談の部屋の他に、さまざまな分野に分かれた部屋がある。
 また、法学部学生や裁判所書記官といった資格者別に分けた部屋もある。ニーズに合わせて対象を絞り込んで参加できる点、さらに一定レベル以上の意見交換を前提として、単なる揚げ足取りのような議論はすぐに削除される点が、他の意見交換の場とは大きく異なる。よく見られる議論のための議論が起きにくく、ゴミ(無駄な書き込み)が少ないところである。

メールマガジン

 「電子メールを使った情報配信サービス。正式には「メールマガジン」と呼ばれるが、一般に「メルマガ」と略される。ニュース、趣味、教養や雑学など、さまざまなジャンルから好みのものを選択し、電子メールで情報の配信を受けることができる。主に個人向けに提供されるものであり、また情報の発信者も個人で行なっている場合がほとんどである。

 以前メールマガジンといえば、特定のトピックに関連した内容に限られた、あるコミュニティにおける「一対多」の情報伝達として使われていた。だが、最近では「メールマガジンポータル」ともいうべき「まぐまぐ」「メルマ!」の登場によって、Webページに並ぶ情報収集の手段に変わっている。(アスキーデジタル用語辞典より)」

 双方向性という意味では問題があるかもしれないが、情報収集という意味で、いわば電子版の新しい出版形態とでもいえるものとして、メールマガジンを挙げておく。

 通常、書籍は、一般のものであれば売れるか売れないか、学術書であればそれに加えて学問的価値があるかといった出版者、編集者の基準で送り出される。メールマガジンは、書きたい人が好きなように書いて、読みたい人が興味を持てば読むというものである。具体的には、上に挙げたようなサイトで講読を申し込めば、無料でメール配信してもらえる。流通にあたる出版者の部分が抜けた出版といえるだろう。これもインターネットによる流通中抜き現象といえるだろうか。

 法律の例として、e-hokiマガジン[官公庁新着情報]が、毎日更新される中央省庁(行政)・裁判所(司法)・国会(立法)・主な自治体などのホームページの主要な新着・更新情報をはじめ、法律に関連する情報およびそのURLを平日毎日送付している。

− 終わりに代えて

 インターネットの実態、問題点、魅力を、できる限り客観的に伝えたいと努めたつもりだが、どこまで伝えることができただろうか。
出版社から頂いたテーマからは少し脱線してしまったように思う。記してお詫びしたい。
 この本で書くことが出来なかったことは、私のウェブサイト(マスコミの表現では「ホームページ」)で補っていくつもりにしている。http://www.cc.toin.ac.jp/sc/Kasahara/index.htmlで入ることができる。
 作りかけで、なかなか更新されないページで申し訳ないのだが、双方向性のあるインターネットの時代、ご批判・ご意見をいただければ幸いである。