-プロローグ-

    ネット社会の落とし穴

 世界中のコンピュータが結びついたインターネット。 何が出来るのだろう。

−メール機能

 なんと言っても、当初インターネットの利用を促進したのは電子メール(要は手紙)だろう。ネットワークにつながったコンピュータ同士では、メールは世界中ただ同然で送ることができる。海外に支店を持つ企業がこれに注目したのは、膨大な通信費がほとんどただになるのだから当然である。
 この電子メールの機能を使って、メーリングリストとネットニュースが出来ている。
 前者は、登録されたグループ全員に個々のメンバーからのメールを送るものである。
 例えば、ゼミ員全員を登録して、質問やその答え、コンパの連絡等に使うことができる。大学の事務連絡も、これを使って印刷しなくても簡単になされている。特定の話題(例えば車、パソコン、医学等々)で集まり、誰でも入れる世界的規模でのメーリングリストもある。私は、ドイツのニュースをこれで毎日無料で受け取っている。

 後者のネットニュースは、いわば馬鹿でかい掲示板である。
 様々なテーマの下で世界中の人が書き込んでいる。関心のあるテーマごとに人が集まる場所で、日本語のコーナーもある。専門家が大勢来てるので、大抵の疑問は解決することが出来る。
 私のコンピュータの疑問点はたいていここか、同じ機能を持つパソコン通信のフォーラムで教えてもらった。法律の所へ行って質問すると、その本の著者からコメントが来たりして、大変重宝している。電話と違い相手がいなくても届き、手紙と違いほぼ瞬時に世界中を駆けめぐることが出来る電子メール。世界をほんとに狭くしてしまった。

− 何が出来るの?

 メールの機能の他に、telnet, ftp, gopher, www,whoisといったコマンド(コンピュータに対する命令)やプロトコル(通信の約束事)もある。
 telnetはあるコンピュータと他のコンピュータをつなぐコマンドである。一番使ったのはドイツ研修中で神戸の震災の話を聞いたときだろうか。ドイツの研究室から telnet で大学のUnixマシーン(サーバ)につなぎ、そこから、ニフティーサーヴ(現「@ニフティ」)に繋いで毎日情報を集めた。後日、マスコミでも有名になったが、被災地の状況がニュースより細かく分かったのが記憶に残っている。
 ftpは、file transfer protocolの略である。
 読んで字のごとく他のコンピュータとファイル(ソフトや文書等の磁気情報)のやりとりをするコマンドである。最近では、ソフトの売買やサポート、ヴァージョンアップがこのftpでサポートされることが多くなり、店に行かずにオンラインで購入し、あるいは無料配布されることが多くなった。
 これも、もちろん、世界中どこにいても使える。ドイツから、よく日本に繋いでソフトをダウンロード(自分のコンピュータに受け取ること)した。
 gopherは、コマンドを知らなくても使うことが出来るメニュー形式の接続である。ゴーファーサイトでは、利用者は番号を選ぶことで、説明を受けたり、図書館のライブラリーを調べたり、世界中の他のgopherサイトへ飛んだりすることができる。今のウェブサイト(マスコミのいうホームページ)ができる前は、アメリカの最高裁の判例や、日本で滅多に取れない州法、州の判例等を集めることが出来、重宝していた。

最後にWWW(World Wide Web)。
   インターネットが一般に広がる契機になったのはなんといってもWWW(World Wide Web)だろう。
 俗にホームページといわれるもので、インターネットの代名詞としてマスコミで目にしない日はないといってもいいほどである。情報量はインターネットの中の80パーセントを占めるのではないかともいわれ、これを見るためのソフトウェアがウェブブラウザと呼ばれる。前回述べたFTPやメール、gopherも取り込んで中心的な地位を占めるようになった。
 インターネットの本質は、情報革命第二期として「情報」と「通信」が結びついたことにあると書いた。では、「蒸気機関」と「交通」が結びついた産業革命第二期に比肩するような影響はどこに現れるのだろうか?ネットワーク化という広い意味で見ると、アナログ時代での恩恵は、銀行のオンライン化だろう。
 昔は通帳と印鑑を持って銀行へ行かないと、お金をおろすことができなかった。いまでは日本中どこでもどの金融機関でも、カードでお金をおろすことができるようになった。さらに今、進んでいるのは、情報のデジタル化、マルチメディア化である。文字、映像、音楽といった情報がすべてデジタル化され、それを運ぶ通信回線もISDNによってデジタル化されている。すべての情報が、コンピュータとそのつながりであるインターネットに馴染む形態になろうとしている。
 音楽がCDでデジタルになり、画像もデジタルカメラやデジタルヴィデオが生まれ、様々な情報が、コンピュータに馴染む形式で記録される様になってきた。
 いわゆるマルチメディア化の中で、インターネットもテキスト・文書中心の情報の時代から、画像・映像・音声といった様々な情報が流れる時代になり、このことが様々な需要を生み出したといえる。
 ネットワークに繋がったすべての人・組織が自由に好きな情報を出すことが出来るので、個人や同好の士の集まりが自己PRのために、企業や大学が自社・自校PRのために、通信販売会社がカタログ代わりに、公官庁が情報を出すためにと、様々な使われ方をしている。
 例えば、学生は会社情報をこれで集め、応募のメールを送り、ブランド好きの女性は、アメリカのブランドショップにアクセスして安いブランド品を注文し、コンピュータソフトの購入もオンライン。絵画好きの人はルーブル美術館で絵を集め、仕事に使う人はデーターベースに入って資料を集め……。CDを買わずに、好きな歌手のホームページから直接曲を落としたり、朝の新聞をオンラインで読んだり、お出かけ前に道路情報を見たり・・・・・・。
 もう近い将来、雑誌全部を買わなくても、読みたい記事だけ自分のコンピュータに落とすことが出来るようになり、図書館にアクセスしてある論文の必要なページだけ自分の部屋から見ることが出来、CDを買わなくても気に入った曲、一曲だけファイル転送の形で買うことが出来る。支払いはデジタルキャッシュで・・・。

 ところが、こうしたインターネットのあまりに早すぎる広がりに、変化に時間のかかる法律が対応できていないのである