-第5章- 情報化社会と情報公開

    知る権利

 設問を一つ。「世界で一番大きな金融機関はどこ?」

 バブル景気がはじけて以来の不景気。「失われた一〇年」の標語の下、何かと元気のない日本だが、まだまだ世界に冠たる(?)「一番」はたくさんある。
 この問いの答えは「郵便貯金」である。なにしろその資金量は、約二六〇兆円(平成一一年度)で、日本の国家予算八五兆円(平成一二年度)の三倍以上あり、資金量だけ見ると世界のトップクラスにある日本の大手都市銀行全部の資金を合わせた金額に匹敵する。

 郵便局は簡易生命保険もその事業として展開しており、その資産は一一七兆円(平成一一年度)もある。この二つと公的年金を元に、「財政投融資」と呼ばれる日本独特の第二の国家予算約六〇兆円(追加分を合算・平成一二年度)が組まれている。
 この財政投融資を中心に、世界一のゼノコンの道路公団(資産三七兆円/平成一一年度)都市基盤整備公団(資産一七兆円/平成一一年度)等の「特殊法人」などの予算となっている。民間企業が不景気で元気がない傍らで、まだまだ世界有数の規模でお金が使われており、その規模と内容は、資本主義の国では珍しいものである。

 過去何度となく政界の汚職、官界の天下りが問題となったが、その多くがこの特殊法人をめぐる問題であった。一九八〇年民社党(当時)が、特殊法人をめぐる一つの汚職事件をきっかけに「公文書公開法案」を衆議院に提出した。以来、確認した限りで一九九三年までに計八本の「情報公開」に関する法案が自民党以外の主な政党すべてから提出され、いずれも審議未了ないし解散で廃案になっている。

− 知る権利

 「情報なくして参加なし、参加なくして民主なし」(韓国 朴議員)
 「情報は民主主義の通貨である」(アメリカ消費運動家 ラルフネーダ)
 <http://plaza10.mbn.or.jp/~conversation/shimin/route/coo-news-13.htm>
↑リンク切れ

 民主主義はそれぞれの人が自分の意見を持ち、その意見を自由に表現することができることを前提とする。表現の自由が憲法で保障される基本的人権の、特に大事なものの一つとして尊重される理由である。そしてまた、自分の意見を形作るためには、それぞれの人が自由に他の意見、知識、情報に触れる機会が必要となる。この点から、表現の自由は「知る権利(情報受領権)」を含むものと考えられるようになった。

 現代社会では、国家とマスメディアに情報が集中し、その情報を出すか否か、あるいはいつ、どう出すかを決めることができるようになっている。このため、受け手である国民の「知る権利(情報受領権)」も、単に情報の受領を妨げられないということ(消極的情報受領権)だけではなく、積極的な情報請求権(情報公開請求権)として捉えられるようになった。

情報法制論(情報法)講義
http://www.law.co.jp/okamura/jyouhou/gifu-keizai/jyouhouhou/tsld001.htm


  − 海外情報公開法の制定状況

   このような時代の要請を受けて、経済協力開発機構(OECD)加盟29か国の中で、14か国が情報公開法を制定している。

海外の情報公開法の制定状況
http://www.asahi-net.or.jp/~ZZ1S-MROK/9adpzu2.htm

 アジアでは韓国が一番早く、一九九六年に行政情報公開法が制定された。この法律は、中央・地方の行政機関のみでなく、政府・裁判所、さらに特殊法人・学校法人も含むという。
<http://www.butaman.ne.jp/~kubotani/news/kankoku2.htm>
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 日本でも、地方公共団体レベルでは「情報公開条例」の形で、既に一九八二年の山形県金山町を皮切りに、二〇〇〇年四月一日の時点で都道府県と市区町村を合わせた地方公共団体全体(三二九九団体)で、一四二六団体が条例(要綱等)制定済みとなった。全体の制定率は、四三.二%となっている。
<http://www.mha.go.jp/news/000630.html>
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  − 情報公開法立法過程

自民党も一九九四年になり、ようやく重い腰をあげ、ポスト行革審として発足した行政改革推進のための第三者機関としての行政改革委員会(以下「行革委」、一九九七年一二月一八日解散)の任務の一つとした。その任務をあげると以下の三点になる。

 (1)規制緩和の実施状況の監視
 (2)特殊法人の見直しなど行政改革の実施状況の監視
 (3)行政情報の公開にかかわる法律・制度に関する調査審議

 行革委は、一九九五年「行政情報公開部会」を設置し、翌九六年に「検討方針」「情報公開法要綱案中間報告」「情報公開法要綱案」「情報公開法要綱案の考え方」を精力的に発表し、一二月には総理大臣宛「規制緩和に関する意見(第二次)」「情報公開法制の確立に関する意見」「行政関与の在り方に関する基準」を具申した。これを受けて総務庁行政管理局に情報公開法制度準備室を設けられ、九七年度中に法案を国会に提出が予定されていたが、結局、一年半遅れた一九九九年「情報公開法政府案」が提出され、五月十四日法律四二号として成立した。
 残念ながら、特殊法人に関しては除外されたが
<http://www.somucho.go.jp/gyoukan/kanri/chap4.htm>←リンク切れ


第一歩としては評価すべきであろう。

情報公開制度の仕組については、ウェブサイトを挙げるにとどめ、アメリカの情報公開との比較をしておこう。

− アメリカ「情報自由法」

 アメリカでは、一九六六年に「情報自由法」が制定され、一九六六年に電子情報についての運用上の諸問題に関して改正した。目的は、連邦政府の電子情報への公衆のアクセスの拡大と公開請求処理の遅延の改善、つまり、インターネット等、電子情報の使いやすさを増し、処理の遅さを改善する点にあり、要点は以下の五点にまとめられるだろう。

(1) 情報の定義に「記録」(record)の一項を追加し、電子情報を含むことを明記。
(2) 自動的公開義務が課されている、行政機関の最終意見・命令、政策声明・解釈などについて、1999年末までに、コンピュータ通信手段により利用できるインデックスを作成し、さらに1996年11月1日以降に作成された行政機関の最終意見などは、1年以内に、コンピュータ通信手段その他の電子媒体によって利用できるようにした。
(3) 公開の媒体は請求者が希望する形式・フォーマットで変換することが容易であればその形式・フォーマットで公開することを明記した。
(4) 電子情報の一部公開の場合に、削除した情報の量を明記し、技術的に可能ならば、削除した箇所も明示した。
(5) 公開請求の手引きとなる資料やガイドを作成し、公衆の利用に供する様規定した。

The Freedom of Information Act
http://www.usdoj.gov/oip/foia_updates/Vol_XVII_4/page2.htm

 公開可能な記録には「電子的なフォーマットのものも含め、あらゆる形態で」保存されている情報が含まれることが明確に規定され、ハードコピーのみでなくコンピュータ端末によってオンラインで手に入るようにすべきだ、ということ規定されている。また、政府機関は文書を電子の形態で検索するための妥当な努力を払う責任があることを明記している。
 アメリカのインターネットの普及は、ハード面では基本料金に市内通話料金が含まれるという使いやすさ、ソフト面では無料で役に立つ情報を取ることができるという点に支えられ、現在では一億人を越えているといわれている。方や日本では、高くて遅いデジタル回線と、あまりに少ない公的機関の情報開示の下、欧米のみならず、シンガポール等アジアの国々と比べても立ち遅れが指摘されるようになっている。

 日本の情報公開法の下でも、同様のことをすることは、義務ではないが、可能ではある。しかし、公開されている情報をアメリカと比較する限り(表参照)残念ながら、その努力がなされているようには見られない。
 その原因をお上意識の強い日本に馴染まないと「文化」に求める考え方、一括して情報を特定の会社に渡しそこに天下り先を求めるという現代日本の「利権」構造に求めるマスコミの考え方、むしろアメリカが特殊とする「アメリカ異質論」を唱える者等、様々な指摘がなされている。いずれにせよ、インターネットの普及が求められているとするのならば、そこに必要なのは、コンピュータというハードを国民に配るようなことではなく、インターネット上の有益で使いやすい情報を充実させることが一番であり、その情報を、未だ一番保有しているのが国家関係機関であることを、今一度考える時期に来ているように思われる。

 さらに、「情報」が、誰のためになぜ公開されなければならないのかを考え直す必要があるのではないだろうか。制度が出来ても、問題はその運用が適切になされるか否かにあり、「コピー代をどうするか」、「仕事の負担が増えて大変」という議論が出るようではあまり期待できそうにない。