-第4章- 電子マネーとオンライン決済(3)

    【オンライン決済の問題点】

-オンライン決済

 オンライン以外の決済手段の多様化を見てきたが、ネットワークで利用できる電子決済制度はどのようなものがあるのだろうか?

− パソコン通信の電子決済

 先にパソコン通信で説明したが、大手パソコン通信は、翌月の通信料から引き落とす形の独自のオンライン決済手段を持ち、小額決済に利用されている。高い銀行の送金手数料を払わなくてよいため、小額のシェアウェアをダウンロードするのによく利用した。  売り手と買い手が同じパソコン通信の会員であれば、そのパソコン通信のサイト以外でも利用でき、ある程度の汎用性はあったが、それがまた限界でもある。

− 電子メール方式

支払いの意思表示および取引者の身元確認を電子メールで行い、資金決済自体はクレジットカード会社や銀行の専用のネットワーク、または専用ソフトを利用して行う方式である。従来からある決済手段をメールによって組み合わせたもので、サイバーキャッシュが代表的である。

ベリトランス株式会社
(サイバーキャッシュ(株)は、2002年4月社名変更)
http://www.veritrans.co.jp/

− プリペイドカード方式

 例えば、五千円のプリペイドカードを買うと、そこに暗証番号が書かれていて、その暗証番号をインターネット上で入力することで、五千円分の買い物ができるという形のオンライン決済がある。その金額以上に乱用される危険性が無いという意味で安全で、普及すれば商品券のように贈答等には使えるようになるだろう。

− 電子キャッシュ方式

 プリペイドカードを買う代わりに、インターネット上で通用する「金銭的価値」を、インターネット上で買うことが出来れば、もっと手軽で便利である。この方法がデジキャッシュ社のecash である。利用者はあらかじめ現金、クレジットカードなどによって ecash を購入する。具体的には、支払った金額に相当する「インターネットで通用する金銭的価値のデータ」が暗号化されて利用者に送られてくる。このデータを、インターネット上の仮想商店で使うことになる。匿名性が保証され、少額取引、個人間の譲渡ができ、現金とほとんど同じ感覚で利用することができる。この仕組みは、プライバシーの保護、取引コストなど技術的には優れたものがあり、九五年、米国ミズーリ州の マークトウェイン銀行 によって、ecashの預貯金のできる口座開設サービスが始められたが、九八年末に倒産している。

− 社会に与える影響

 最近は、インターネット上の小額決済に銀行も乗り出し、インターネット専用銀行と銘打った銀行の設立ラッシュである。しかし、いずれも現実の銀行業務をオンライン上で展開しているだけで、インターネット上の電子マネーが普及した場合と比べると、そのインパクトは大きくない。三百円の支払いに、場合によっては五〇〇円から八〇〇円取る銀行がその手数料を下げてオンライン上の小額決済に乗り出そうとしているだけに見える。オンラインバンキングにしても、街角のATMの代わりを家庭のコンピュータがするだけで、駐車場を探す大変さと営業時間を気にしなくて良くなるだけである。(それはそれで便利なのだが・・・。)

 電子マネーが本格的に普及すると、個人間や個人と企業との間、あるいは企業同士の決済を電子決済で行うと、間に銀行が入らない決済というのが可能となる。銀行の重要な業務の一つである決済業務を当事者が直接できるようになるのである。土地神話の下、不動産の担保価値を信用と勘違いして、いわゆるサラリーマンの小口金融をほとんど手がけなかった銀行が、不良債権問題で右往左往している間に、電子マネーを中心とする世界の変革にどんどん置いていかれているように心配するのは筆者だけだろうか。

 また、電子マネーを発行するのは銀行に限られなければならないわけではない。通貨発行権は各国の通貨当局が握っており、通貨供給量もコントロールしている。しかし、電子マネーが銀行を監督する通貨当局の関知しないところで発行され流通すれば、あるいは、海外の電子マネーを使えば、銀行を通して資金の流れをコントロールしてきた金融政策も変更を迫られるし、そもそも通貨の流通漁自体把握できなくなってしまう。

 その意味で、銀行と国家の役割に大きな変更をもたらす可能性がある。一つの国(例えば日本)の法が、この変化にどれくらい柔軟に対応し、あるいは、しないのか。インターネットは、「国家」の意義にすら目を向けることを求めている。