-第3章- 電子認証 電子公証(1)

    【誰がどこまで証明できるのか?】

− 「認証」という言葉  広辞苑で「認証」という言葉を引いてみた。「一定の行為または文書が正当な手続・方式でなされたことを公けの機関が証明すること。」
 この定義からは外れるが、ネットワークの場合、個人がインターネットサービスプロバイダに繋いで、IDとパスワードを入力して本人であることを確認することも、公の機関ではないのだが、本人認証と呼ぶ。さらに、電子署名という言葉で前章で述べた話も、認証機関による認証を前提としているが、必ずしも公的機関によるものではない。
 将来は地方公共団体による認証が一般化されると思われるが、現在はまだ普及していない。

− 会社の認証

個人の認証に関しては、暗号利用の電子署名を中心に前章で述べたが、会社等法人の認証の面から、もう一度見ていこう。

 オフラインの「認証」では商業登記制度が使われている。解かりやすくいえば「会社の住民票」で「会社の印鑑登録制度」もある。商業登記には、会社の商号、本店、代表者の資格、氏名、住所等、取引上重要な事項について「公示」する機能があり、登記簿の記載を信頼した人を保護することになっている(商法一二条、十四条)。また、会社の代表者等が登記所の提出する印鑑による印鑑登録制度があり、個人の場合同様、取引で重要な役割を果たす。

 「電子認証制度」は、会社の認証に関しても、個人同様の制度を置く。改めて「電子認証」を定義すれば、「電子取引や電子申請において、取引または申請の相手を特定するとともに、現に電子取引または電子申請にかかる電子情報の作成者がその特定された会社または本人であるのか、さらに、相手方が会社である場合には、電子情報の作成者がその会社の代表権限を有する者であるのか等について、証明権限を有する機関(以下「認証機関」という)が証明するという制度」である。

会社の場合は、商業登記制度(法人の住民票)に基礎を置き、「商業登記等の一部を改正する法律」(平成一二年法四〇号)による商業登記法の改正により成立した。
 解かりやすくいえば、会社版の住民票(商業登記)と印鑑証明のネットワーク版で、法務局が担当する。

− 電子署名と認証機関

 冒頭に述べたように、認証機関は公的機関に限られていない。電子署名の認証機関はどのような形になっていくのだろうか。

 これは、今の印鑑の使われ方と同じように考えれば良いように思う。一番確実な印鑑は、市町村役場・区役所等の窓口で登録した印鑑証明を取ることができる印鑑、つまり実印である。しかし、毎回実印を利用していては、かえって陰影等を採られて危険である。普段の生活では、三文判のようにあまり証拠としては意味がない印鑑が使われている。(筆者も一度、二つの印鑑が似すぎていて銀行印がわからなくなり、銀行で確かめてもらったことがある。ところが、銀行でも判らなかったという面白い経験をしたことがある。)  予測に過ぎないが、会社では、大きな取引等の契約で法務局の認証を受けることができる電子署名が使われ、個々の会社員が日常の細かい業務上の取引に使う電子署名は法務局でない認証機関の署名が使われる可能性がある。そのために、会社自身が認証局の認定を受けることもできるだろう。個人では、同じように、実印代わりの電子署名とそれ以外の日常的な契約に使う電子署名を使い分けることができる。その場合、実印用の電子署名を法務局に登録するようになるのか、あるいは現在の実印同様に地方自治体に登録する形になるのか。手軽さからいっても後者になって欲しいと考えている。

印鑑という曖昧な制度は、署名と違って過信すると危険で面倒なものになる。しかし、その曖昧さは電子署名で使われた場合、重要度に応じて電子署名を使い分けるという電子署名のセキュリティを上げる意味では、有効に機能するように思われる。(ついでに是非、お金と時間のかかるパスポートセンターを廃して、地方自治体でパスポートを兼ねた身分証明書を簡単に発行してもらえるようになって欲しい。個人の公的認証業務をここにまとめれば、費用も時間も節約できると思うのだが・・・。)