-第3章- 電子認証 電子公証(3)

    【電子商取引の問題点】
− 電子商取引の問題点と法制度の課題

 「日米電子商取引の市場規模調査」(平成一一年三月通産省(当時))によると、二〇〇三年の電子商取引規模は、B to C (Business to Consumer)が、三.一六兆円、B to B (Business to Business)が六八.四兆円に育つことが予想され、それぞれ全体の一%、一一.二%になるといわれている。

【見開きグラフ】

 ちなみにアメリカでは、前者が二一.三兆円(三.二%)後者が一六五.三兆円(一九.一%)と予測されており、B to Cに関しては三年遅れ、B to Bに関しては一年半の遅れになるだろうといわれている。

 電子署名、電子認証制度、電子公証制度の成立により、会社や個人の認証の問題、証拠の問題は解決されようとしている。また、暗号技術の普及によりクレジットカードの情報漏洩・不正使用の問題も解決しそうである。しかし、まだまだたくさんの問題点を残している。ここで整理しておこう。

 まず、大きな問題として、決済手段の選択肢が少ない点が挙げられる。従来型の送金方法を除くと、普及しているのはクレジットカード決済しかない。「電子決済、電子マネー」の問題である。さらに、オンライン上暗号技術等で情報の保護を図っても、私企業から個人の情報が漏れてしまえば意味がない。いわゆる「個人情報保護制度」の問題である。この二点は章を改めて詳しく述べるとして、ここでは、解決されなければならない現行法制度の細かい問題点と改正の動きを列挙しておこう。(かなり法律の細かい話になるので、興味のない読者は飛ばして欲しい。)

  − 民商法上の問題点

【発信主義と到達主義】

 インターネットにより国際間の取引が直接なされるようになり、国際的整合性のあるルール整備が求められている。日本では、契約成立に関する意思表示の発信主義をとっているが、多くの国で到達主義を採る。契約の成立時期が異なるのである。経済産業省が提出しようとしている「電子消費者契約法案」で、これを改正しようとしている。
 また、多くの先進国が批准している「動産売買に関するウィーン条約」が、日本ではまだ批准されていない。

電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律案に対するパブリックコメントの募集
http://www.meti.go.jp/feedback/data/i10305aj.html

【CPの電子化】

 商法に目を転じると、さらに多くの問題がある。
 まず、約束手形等のコマーシャルペーパー(CP)の電子化をどうするかという問題に関し、法務省・大蔵省共同研究会報告書(二〇〇〇年三月)では、「発行、流通、償還すべてのプロセスを電子化することが必要」とし、「券面に変わる電子的な記録を基礎として、権利の発生、移転、消滅等の効果を付与する法制度の整備が必要」とされている。

 また、社債券、株券の電子化には、証券決済法制の改革が必要で、二〇〇〇年六月の金融審議会第一部会証券決済改革に関するワーキンググループ報告書によれば、株券等保管振替法 社債等登録法の改正を視野に入れている。

【貿易】

 貿易に関しては、船荷証券の電子化、さらに貿易金融取引そのものの電子化が世界的な合意の下で進められている。いわゆるペーパーレス貿易で、一九九八年一二月APEC参加国・地域の専門家によるAPEC電子商取引研究会は、書類による輸出入申請作業などをなくすペーパーレス貿易を先進国は2005年、発展途上国は2010年に実現するとの努力目標を提言した。

【紙面要求の緩和】

 さらに、さまざまな法律での紙面要求の緩和が模索されている。既に、手形等の保存はマイクロフィルム化が認められ、会計帳簿元帳等、見読可能性があれば電子データでよいとする解釈が確立している。しかし、計算書類(貸借対照表、損益計算書等)は、株主総会前に株主に送付する義務があり、株主総会の書面投票制度では、書面投票用紙に印鑑を押して返送しなければならないことになっている。これを、電子通知・電子投票制度へ置き換える方向で改正が検討されている。
 また、ネットワークでコンピュータがつながる以上、会社の各支店所在地での登記の省略・廃止することができる。本店所在地の登記にアクセスすれば住むからである。同様に、外国会社の日本での活動のための登記も不要になると思われる。

 商法の領域を除くと、平成12年度の第150回国会で「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(IT書面一括法)」が成立している。

会議録
まだ衆議院の「制定法」には掲載されていない。

書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(案)
http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0001048/0/1020syomen1.htm

 この法律で、書面を要求する50の法律が改正された。大きく二つのグループに分けることができる。

 一つは、民間における商取引に関する書面の交付や書面による手続きを義務づけている関係法律に関して、書面の交付等に変えて、顧客の承諾を得て、書面に記載すべき事項を情報通信の技術を利用する方法によって提供できるようにするものである。これによって、たとえば訪問販売法で通信販売業者に求められる書面による承諾通知を、顧客の承諾を条件に、電子メール等で送信することができるようになる。

 もう一つは、組合における議決権等について書面による行使等を義務付けている関係法律に関して、定款に定めた場合、議決権等の行使に情報通信技術を利用する方法を使うことができるようにするものである。これによって、株式会社等の商法上の会社より一足早く、電子メール等で議決権を行使できるようになった。

【裁判】

 裁判に目を転じると、電子データの証拠能力・証拠力の問題が、電子署名法、電子公証制度により相当程度解決する。しかし、民事訴訟法は文書中心の証拠制度をとり、十分に対応しているとはいえない。オリジナルとコピーの違いのないデジタル情報の証拠を、どのように裁判手続で扱うのか、判例の集積により解決されるのだろうか。

 グローバル化に伴う国際管轄の問題、すなわち、どこで裁判するかの問題もある。また、それ以上に、非常に早いテンポで進む電子商取引のスピードに、現在の時間のかかる裁判で対応できるの化が問題である。仲裁・調停といった裁判外紛争処理手続が提唱されている。

 市場のグローバル化と個人輸入に対する課税、関税定率法上の問題も残っている。個人がソフトウェアをダウンロードするとき、日本のサイトから落としても、アメリカのサイトから落としても、インターネット上、その個人にとっては違いがない。しかし、アメリカのサイトからダウンロードすれば、これは輸入になる。国際的な合意が必要な領域であり、その形成の努力が求められている。