-第3章- プロバイダの「責任」と利用者の「心得」(2)

    インターラクティブサービスプロバイダの民事責任

 もっとも広い概念としてのインターラクティブサービスプロバイダの責任を考えた場合、従来の議論で見落とされているものは、インターラクティブサービスプロバイダから業者としてのインターネットサービスプロバイダを除いた部分である。インターラクティブサービスプロバイダから電気通信事業法の適用を受けるプロバイダを除いた部分と言い直してもよいだろう。

 大学の例を取れば、そこでは、多くNTTの専用線を使い、独自のドメインを持ち、直接にインターネットにつながっている。
 しかし、通信事業法にいう通信事業者ではなく、この法律の適用はNTT回線の部分にはあるが、ローカルネットワークとしての大学自身にはない。そこでは、メール機能を使ったメーリングリスト、ネットニュース、BBS機能を使った掲示板、学生(大学によっては卒業生を含む)のウェブサイト(いわゆるホームページ)を置くサーバ機能があり、インターネットサービスプロバイダないしオンラインサービスプロバイダ(パソコン通信)とほぼ同等の利用がなされている。
 さらに、従来からのインターネットの機能として、 様々なユニックスコマンドないしインターネット上のプロトコルも利用できる。また、従来型のインターラクティブサービスプロバイダで接続した後は、インターネットサービスプロバイダで接続した場合と全く同じ様に、コンテンツサービスプロバイダその他のサービスを利用できることはいうまでもない。

 こういった従来型のインターラクティブサービスプロバイダに関しては、何らの法規制もなされていない。インターネットとの接続に関する責任論を論じるにあたっては、電気通信事業法の議論だけでは足りず、これらの役務提供者(サービスプロバイダ)を含んだ議論が必要であり、私見では、インターラクティブサービスプロバイダ全体を視野に入れた立法が必要であると考えている。

 まず必要となるのは、管理可能性のない情報からの免責、具体的には、他のインフォメーションコンテンツプロバイダの内容から生じる責任の免責である。
次に、インターラクティブサービスプロバイダは、利用者をインターネットに接続するサービスの提供者であるから、接続情報、接続者に関する情報、さらには、接続自体を維持・管理する立場にある。通信の秘密、検閲の問題をどう考えるにせよ、これら通信事業法の規制を、通信事業法の適用のない従来型のインターラクティブサービスプロバイダにも適用するためには、新たな立法が必要となる。少なくとも、通信の秘密、検閲の禁止の規定は、これらのプロバイダへ適用される方向で立法がなされることが必要と考える。

− インフォメーションコンテンツプロバイダの責任

 従来、日本で議論されているプロバイダの責任論は、ほとんどが、この類型に関する議論である。インターネット上に情報を提供・管理しているプロバイダの責任である。大学等の研究機関その他、電気通信事業法の適用のないプロバイダも、コンテンツ(情報)を提供・管理している限りで、この責任を免れることが出来ず、従来の電気通信法等の議論だけで十分でないことは、この類型についても同じである。

 オフラインで違法なものは、オンラインでも当然違法なものだが、犯罪行為等の取り締まりは、まず、警察等取締機関によりなされるべきものである。例えば、わいせつ画像の取り締まりは取締機関の責任で、プロバイダにその責任を負わせることは私的検閲を求めることになり、認めることはできない。

 警察もインターネットに対応して、いわゆる「ハイテク捜査班」を置くようになり、成果をあげている。九八年一〇月三〇日に、警視庁捜査一課と本富士署が、わいせつな行為を観賞する会に参加した千葉県の男性会社員(四四)の映像をインターネットで流し、電子メールを利用して現金四〇〇万円を脅し取ろうとした容疑者(二八)を恐喝未遂の疑いで逮捕した。「ハイテク捜査班」の摘発第一号といわれている。
 また、各地に警察の支援で組織された「プロバイダ連絡協議会」を通じて違法・有害情報に対する情報交換を積極的に行っている。

 民事責任に関して見ると、違法な情報をコンテンツプロバイダが自ら提供した場合、プロバイダが責任を負うのは当然である。問題は、違法な情報がコンテンツプロバイダに載せることができる者により作成され、結果として、コンテンツプロバイダがこれを管理することになった場合である。

 名誉毀損等、第三者の権利が継続的に侵害されている場合に、内容を管理することが出来るプロバイダがこれを放置することは、第三者からプロバイダに民事賠償責任を追及される可能性がある。対処法として考えられるのは、アメリカ式に、プロバイダ自身の責任を免責するか、あるいは、ドイツ式に、プロバイダが違法なコンテンツの存在を知り、そのコンテンツの利用を止めるための技術を持ち、もしくはそれを期待できる場合に限り、責任を負うとするかのいずれかである。

基本的には、後者を妥当と考えるが、以下の点に注意が必要である。
 コンテンツプロバイダが責任を負う可能性があるとすれば、法律家スタッフを抱えたプロバイダは別として、限界事例に関しては、安全のために内容の管理を強化することになり、自由・自己責任の下で発展してきた、インターネット上の表現の自由を阻害する可能性を否定できない。コンテンツプロバイダが拠ることが出来る明確な基準を作るとともに、削除等の措置を受けた者からする不服審査機関を設ける必要があると思われる。郵政省が提案する第三者機関ないし類似の第三者機関をこれに当て、利用者の救済を図ることが可能かつ必要であるように思われる。

 また、インターネットサービスプロバイダであれば契約時に、大学等の従来型のインターラクティブサービスプロバイダであれば利用規則等に、編集・削除等の管理がなされることを明確にしていないと、利用者からプロバイダに対し、民事損害賠償が求められる可能性がある。明らかに違法な場合を別にして、限界事例でこの判断をプロバイダに求めることは酷であろう。特にこれから、マルチメディアの進展とともに、著作権法上の問題、訪問販売法上の問題、不正競争防止法の問題、放送法上の問題、証券に関する行政法上の規制の問題等々、インターネットのインフラ化に伴い、デジタルコンテンツ中に様々な法律上の問題が入ってくる。コンテンツプロバイダ自身が専門家である場合を別にして(例えば、証券会社自身がコンテンツプロバイダとなり、証券の電子商取引をする場合)、それらすべての問題に対応できなければコンテンツプロバイダになれないとすれば、法律スタッフを抱えた相当規模のプロバイダ以外、コンテンツを提供できなくなってしまうであろう。

 この意味で、郵政省が提案する第三者機関を設置することが必要かつ有効であるよう思われる。同時に、従来からある第三者機関(例えば、著作権協会)、行政機関(例えば、女性少年室)等の、より一層のインターネットへの対応が必要になってくるであろう。 情報の伝達経路が通信回線であっても、デジタル化とそれによって引き起こされたマルチメディア化により、従来通信回線で予定していなかった内容・デジタルコンテンツが、さらにまた、従来、通信回線で予定されていなかった形態でやりとりされるようになった。
 「マルチメディア」の本質は、デジタル化によるメディアの融合にある。すなわち、画像、音声、音楽、動画、さらには、電子マネーの形での金銭的価値といった、従来では考えられなかった情報がコンピュータで扱われるようになり、インターネット等のネットワークで瞬時にやりとりされるようになることにある。コンテンツプロバイダは、郵便局、放送局、テレビ局、電話局、銀行、証券会社になる、あるいは、郵便局、放送局、テレビ局、電話局、銀行、証券会社自身がコンテンツプロバイダ、さらにコマースサーバプロバイダになる時代になっている。そうなると、インターネット自身は、特殊な通信メディアではなく、社会のインフラとなる。研究機関、官庁等、通信事業法の対象外のインターラクティブサービスプロバイダ全体を視野に入れ、ネットワーク全体を大きく規制することがまず必要である。この点で、アメリカの通信品位法、ドイツのテレサービス法、メディアサービス法が参考になるであろう。

 また、一つのプロバイダが、複数のサービスを提供している以上、プロバイダの類型化だけではなく、プロバイダの個々の機能ないしサービスに着目した、機能ないしサービスごとのより細かい個別の検討が必要となっていると思われる。