近年、内分泌攪乱化学物質による環境汚染が問題となっているが、その影響、作用機構はまだ研究段階にある。内分泌攪乱化学物質の一種であるダイオキシンの毒性発現においてはAryl hydrocarbon receptor (AhR) が重要な働きをしていることが明らかになっている。AhR は細胞質に存在する核移行たんぱく質で、リガンドに結合すると核内へ移行する。そしてAhR nuclear translocator (ARNT)とヘテロ二量体を形成し、ゲノム上のXenobiotic responsive element (XRE) に結合し、遺伝子の転写を促進、または抑制する。(図1)

 ダイオキシンの生体作用として、催奇形性、発ガンのプロモーション、免疫抑制、薬物代謝酵素の誘導など様々なものが知られているが骨代謝におよぼす影響については報告されていない。

萩原研究室では内分泌攪乱化学物質の骨代謝への影響を調べるために、AhRのリガンドの一つであるメチルコランスレン3MC)を用い研究を行っている。

骨形成への影響

メチルコランスレン(3MC)は骨芽細胞の増殖を濃度依存的に顕著に抑制する(図1)と共に、骨芽細胞の分化も抑制した(図3)。

メチルコランスレン処理した母体から得た胎仔では中手骨、中足骨に骨化遅延が顕著に観察された(図4)。

本研究によりAhRを介したシグナルが骨代謝異常を引き起こす可能性が示唆されつつある。




図1 模式図
TCDD
TCDD
テトラクロロジベンゾ
パラダイオキシン
一番強力なダイオキシンで
奇形児などが報告されている
細胞膜
核膜
AhR
Hsp90
ARNT
3MC
メチルコランスレン
ダイオキシンと同じ経路でシグナルを伝える事が報告されており、ダイオキシンの研究に使われている。
遺伝子の転写の促進、抑制
ROB(Rat Osteoblast)
MC3T3-E1を用いて
骨芽細胞
3MCの細胞増殖への影響を調べた結果、3MCが濃度依存的に細胞の増殖を抑制することがわかった。
内分泌攪乱化学物質の骨代謝への影響
同じ細胞を用いて今度はカルシウムの沈着量の変化について調べた。
その結果3MCは濃度依存的にカルシウムの沈着を抑制することがわかった。
また母体に打ち込むことで胎児の骨形成が阻害されることが確認された
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