
◆思わぬ苦戦(予選第1日目)
このロボカップ2003新潟、信濃川河口に新設された一大コンベンション施設「朱鷺メッセ」で開催される。この不況下で総工費じつに460億円。日航ホテルや、日本海側で最高の高度(140メートル)を誇るというタワーも併設、その目出度いこけら落としの会場なのだ。「ゆめテク新潟’03」なる未来志向の見本市も同時開催され、このGWの連休中に10万人からの人出を見込む。何かと地味な日本海側でも、屈指の大イベントなのである。

新潟市民もドッと押し寄せた
早くに東京を発ったのだが、たどり着いた朝の会場にはわが桐蔭チームがもう陣取っている。必勝の意気込みも高く、すでに2日前から現地入りしているのだ。さあ、いよいよ本番。晴れの舞台に備え、最終チェックに余念がないハズ・・・・・と目をやると、あれ、どこか様子がおかしい。小柳チームリーダーも、ふだんの穏和な笑顔が消え、眉間に皺を寄せたまま渋い表情だ。開口一番、「大トラブル発生!重大も重大。無線が切れちゃって、通信ができないんだ!」一オクターブ高い、悲鳴に近い叫び声がほとばしり出る。えッ?予期せぬアクシデント発生。そういえば、今朝起き抜けに見たNHKの天気予報は快晴のはずだったのに、降り立った新潟駅頭はなんとドシャぶり。あの瞬間からじつは、何だかイヤーな予感がしていたのだ。額を寄せ鳩首協議する先生方、両腕を組み天井を見つめたまま石のように固まる学生たち。その深刻な場面を一応記録にと、ストロボをたいて写真に納めたところが、振り向きざまキッとにらまれてしまう!それほどまでに神経が高ぶっている。じつは、その時はまだ承知していなかったのだが、会場内ではストロボと携帯電話は一切御法度。 このロボット競技、カメラや無線を駆使した高度なシステムのため、悪影響を及ぼすおそれがある機器は使用禁止とのことだ。むろんそんなこととはつゆ知らずの暴挙ではあったのだが、身内に対してもこの苛立ちぶりはただ事ではない。「現地では、わたしはやること無いから、酒でも呑んでますよ」と語っていたリーダーの余裕はどこかへ消え去って、横浜を発つときの楽勝気分は一挙に吹き飛んだ。

このとおりデス
小型ロボットリーグはほぼ卓球台ほどの広さのピッチで、オレンジ色に塗られたゴルフボールが使用される。ロボットの本体は直径18センチ以内の大きさに制約。1チームは5台以内。ラジコンに毛がはえた程度のものと思ったら、とんでもない。自律型といって、センサーとしてピッチの真上3メートルの高さに設置されたカメラで映像を撮影。それをもとに自チームロボット、ボール、ピッチ状況、敵ロボットの位置などを割り出し、ホストコンピュータに情報を送る。それを処理して、今度は無線でロボットに指示を与える。つまり躯体のメカニズム、画像処理、戦略を指示するアルゴリズム等が高度に一体化していないと勝てない仕組みだ。

事態は極めて深刻

カメラの調整に四苦八苦
したがって、きわめてデリケートに出来ている。大会関係者にうかがうと、「研究室などのローカルな環境では問題なく動くロボットたちでも、以前の大会の例では、会場の照明が変わっただけで機能しなくなったり、誤作動するケースも続出。本来の性能を発揮できない場面が目立った」という。なお、桐蔭メカの特徴は、オムニ・ホイールといって前後左右ばかりでなく、360度全方位に素早く移動する動きのよさと、新開発の強力なドリブル、シュート機構だそうだ。こちらも認識を新たにして、とくと拝見つかまつろう。
途切れた無線LANを繋ぐべく、必死の調整がつづくが、奮闘むなしく時間切れ。いよいよ第一戦キックオフの笛は無情にも鳴らされた。対戦相手は沼津工専plastic brick。しかし、ピッチ上に登場したわが精鋭はなんと一台。これでゴールキーパーもフォワードも兼ねよというのか。間際に一台追加され、それでも総勢2台とはなった。いったん動きだすと、これぞ自慢の全方位型というのか、瞬間的には軽快に走り回る。が、惜しむらくは後がつづかない。致命傷はコントロールが利いていないこと。敵の反則によって再三ペナルティキックのチャンスを迎えるが、肝心のキック役ロボットはシュートを放つどころか、ボールを前に俄にイヤイヤの後ずさり。こんな所で謙譲の美徳を発揮しなくてもいいものを、と切歯扼腕する。
ハーフタイムには、大会役員も交え協議が行われるが、通信障害の原因は不明のまま後半戦に突入。そして後半3分、なんと味方ロボットがはじいたボールがコロコロとあらぬ方角へ転がって、無念のオウンゴールだ!相手に思わぬ先制点を許し、それがそのまま決勝点となった。自慢のシュート力を披露する暇もあらばこそ、初戦から不覚の一敗を喫してしまったのである。昼時、会場脇には突如テントの屋台村が出現した。カレーを盛ったお皿をかかげ声をからして呼びかけるコック姿の娘さん、「ラーメン」と大書された旗をうち振るネクタイ姿のマネージャー。お客のなかには焼き鳥片手に生ビールの大ジョッキと、すでに出来上がってしまったオジサンもいる。

祈るように送り出すが・・・。
桐蔭チームの昼食は? と覗き込めば、これはメニューのなかでも最も高価なステーキ丼(600円也)を奮発。そう、「テキにカツ」は古い洒落だが、この際、溺れる者は藁ならぬステーキにもすがりたい心境か。

屋台村は大繁盛

ゲンカツギのメニュー
さて、お腹も満たされ気を取り直しての第2戦。相手は地元の期待を一身に背負った長岡技術科学大学Nagaoka-Fireworksである。ピッチに目をやれば、必死のLAN調整の甲斐あってか、ステーキ丼の御利益なのか、わがチームのロボットたち、登場するのも4台と増えた。相変わらず、停止状態も目に付くが、初戦より少しは動きもよさそう。縦に突進、と見る間に横にカニ走り。なかには、これぞ全方位というのか、まるで爆竹を尻尾にくくりつけられた牝豚のように、やたらピッチ狭しと走り回る一台も。
すると突然、女性レフェリーの甲高い悲鳴にも似た叫び声。鋭いホイッスルの連呼。「キャー、やめてくださ〜い!誰か、止めてッ」思わず指し示されたスティックの先に目をやると、何故だ!ゴールキーパー役のわが1台が前後左右、四方八方に激しく迷走。挙句の果ては後方に猛烈な勢いで遁走し、自陣ゴールに激突。ベニヤ板製のゴールボックスを破壊してしまったところ。これにはレフェリーも唖然呆然。「前代未聞!こんなこと初めて」と呟きつつ応急修理の一幕も。この破壊力が敵ゴールに向かえばいいものを・・・・・と、むなしい繰り言が胸をよぎる。しかし、第1試合とは見違えて、右サイドから敵陣を深くえぐり、時たまシュートを放つ場面もあった。
アルバトロスのシュート力は大会随一との評判で、当たれば結構いけるのだ。またも左45度からシュートを放つ。惜しい。そして前半7分、ついに待望の先制ゴールの瞬間が。やれやれ、1点リードのまま迎えたハーフタイムには、チームの面々にもやや安堵の表情が見え隠れする。傍らで記録用のビデオを回していた、いつも冷静なO君までが、「今度はいけます!大丈夫ッ」と太鼓判を押している。

自陣に向かった破壊力
いよいよ後半。またも軽快に横走り。が、もうあまりシュートは狙わない。もっぱら守備固めに専念し、4台で味方ゴールを死守。このまま1点を守り切れば、待望の初白星だ。すると、ややッ、守りの1台がまたしても迷走。あ、危ないと思う間もなく、自陣にシュート!強烈な破壊力は空回りして、又しても痛恨のオウンゴールと相成った。先ほどのゴールボックス破壊事件といい、オウンゴールの連発といい、肝腎のベクトルが味方陣営に向かってしまうこの怪現象は、いったいナゼ?

弾丸シュートの瞬間
予想だにしなかった局面に、観戦記者の脳裏には悪い妄想が果てしなく沸いてくる。これはきっと、いずこからか(桐蔭を勝たせまいという)謀略の怪電波でも発っせられているのではあるまいか!?そういえば、ここ新潟は北朝鮮にもっとも近く、関係も深いはず。テポドン騒ぎはしょっちゅうだし、例の謎の貨客船「万景峰号」も、つい目と鼻の先の港に出入りする・・・・・。
いや待て、あるいはこのところ世の中を騒がせている「謎の白装束の一団」か。パナウェーブ研究所とか何とか名乗ったあの連中、「スカラー波、スカラー波」とやたら怪電波に神経をとがらせているではないか。ひょっとするとひょっとして・・・・・だが、謎の白いキャラバン隊の移動範囲は今のところ岐阜県内にとどまる。本部の所在地もたしか福井あたりと聞いた。まさかあの常人では理解不能の磁力・魔力・電波力が、ここ新潟の朱鷺メッセ、わが桐蔭チームの頭上まで届くはずもないのだが。
妄想から醒めてピッチに目をやれば、結局試合はそのまま1対1の引き分けで終了。試合後やや冷静さを取り戻した小柳リーダーにお話をうかがう。敗因はズバリ何ですか?「最大の誤算は、割り振られた電波の周波数帯が何モノかとバッティングをおこしていること。これは、システムの深い所をいじらないと直らない。それから、床面。カーペットが薄すぎて、制御しても止まらない。照明も均一のはずが、やぐらの4隅から照らす明りが中央部分にのみ集中してしまっている。ま、わが身を振り返れば、油断もありました。予備の5台を含め、10台も持ってきたのは多すぎて手に余ったし、もっとも初歩的なところでは、通常1台1台に診断簿を作るのですが、これを今回怠ってしまった。云々」

必死のLAN調整がつづく

残念無念
敗因分析と反省の弁はまだまだ淀みなくつづくのだが、最後に一言。「出がけに竹内学部長から、『新潟ではボロ負け、世界では優勝!のパターンが、最高に盛り上がっていい』なんて妙な励まし方をされましてね。それが、ホントにそうなっちゃいそうで・・・・・」。ボヤきの傍らでチームは必死の修正作業。夜中まで、晩飯の時間も惜しんで調整がつづくこととなった。
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