TOIN UNIVERSITY OF YOKOHAMA

宮坂研究室

研究テーマ

私たちの研究室は、電気化学の論理と計測技術をベースとして、光化学と生体機能の科学がかかわる複合領域の研究を進めています。 その研究の出口には、分子エレクトロニクス、バイオエレクトロニクス、バイオ素子、そしてナノテクノロジーが生み出すハイブリッド素子があります。 これらの素子は、生活を取り囲む光と環境がかかわる新しいエネルギー変換システムの開発、そして医用工学に密接な環境センシングシステムや網膜チップのような光情報処理用センサーの開発につながるものです。

1.色素増感半導体セルによる太陽光エネルギー変換(応用電気化学分野)

光と電気化学の接点をあつかう光電気化学の分野は、酸化チタンや酸化亜鉛などの半導体電極の活躍によって大きく発展してきました。その産業への応用としては、半導体光触媒の開発が広く知られています。われわれは光電気化学の研究の応用出口として、色素増感多孔質半導体薄膜を用いる光電変換の研究を行っています。この研究は、「光合成の工学モデル」としてすでに産学分野で活発に研究されていますが、本研究室ではこの技術を環境循環型の発電素子の形で完成させることをねらい、視点を変えた開発研究を進めています。第一に、高温で焼成法によって作る半導体薄膜を常温のもとで低環境負荷で簡便に作る技術の開発、第二に、電解液、色素を含め素材として極力天然の資源を用いてセルを作製する方法に注力しています。さらに、電極基板にはプラスチック基板などフレキシブルな支持体を用いることで、応用の範囲を環境・医用工学の分野にも広げることを狙っています。シリコン系太陽電池の効率と競争し、これを置き換える発電素子を追うのではなく、従来の発電素子にはない特長をフレキシブル、均一透明性、低環境負荷(グリンサステナビリティー)という評価に求めた開発を行います。

このエネルギー変換の研究の中で、現在とくに力を入れているのが、プラスチックフィルム型光電池の開発です。透明導電性プラスチックフィルムを色素増感電極と対極に使い厚さ300μm以下の光発電フィルムを作り、その軽量性、フレキシブル性という特長を生かした産業用途の拡大を図るとともに、roll-to-roll型生産工程による大幅コストダウンを目指します。電池は多くの部材が直列に組合わさってできるアセンブリー技術であり、産学共同の研究が大きな効果を生み出します。我々は独自で開発した「静電的電着法によるチタニア膜の低温製膜」を基盤技術に用いて、フィルム型素子をプラスチックを痛めない低温下(<150℃)で完成する工程を実現し、そのエネルギー変換効率の高効率化を進めています。こうして作製する、加工性、そして光透過性にも優れるフィルム光電池を、屋外用から屋内用、そして携帯用までの広い目的で、民生用産業材料として送り出すことを計画しています。

2.感光性ペロブスカイト結晶を用いる有機無機ハイブリッド太陽電池
  (材料工学、光固体物理分野)
Organo metal perovskite-based organic inorganic hybrid solar cells

有機無機ハイブリッド構造のペロブスカイト結晶であるNH3CH3PbI3が、酸化チタンの可視光増感剤としてはたらくことを2009年に見出して以来(J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 6050)、この結晶を感光材料に使った固体薄膜太陽電池の研究が活発に行われ、有機系太陽電池のなかでも最高効率(15%以上)をリードする研究分野となっています。電気化学反応がかかわらない発電のしくみから、色素増感型とは一線を画します。ペロブスカイト結晶薄膜は金属酸化物(チタニア、アルミナ)の多孔膜上に、その結晶生成原料を溶液塗布することで数分のうちに形成され、800nmまでの可視光をバンドギャップ吸収によって集光します。その上層に有機正孔輸送材料を接合した薄膜セルは高い電圧(>1V)を出力します。セルは、平易な溶液塗布によって作ることが可能で、その感光波長域をペロブスカイトのハロゲン組成によって変えることもできることから、色素増感太陽電池と同じく、低コストで製造でき、かつカラフルなデザインに繋げることが可能です。このハイブリッド太陽電池は、ほかの固体接合太陽電池と異なり、化学工程で作ることを特徴とする「化学で作る太陽電池」の典型と言えます。 このペロブスカイト材料の他にも、酸化チタン多孔膜との固体接合で高い電圧(1.2V)を引き出すことのできる有機材料ならびに複合材料を開発し、高電圧型の薄膜ハイブリッド太陽電池の実現に繋げます。

Photovoltaic cells with organic inorganic hybrid layered structures are capable of high conversion efficiency backed by strong light absorption and high voltage output. We are developing thin solid-state hybrid solar cells composed of mesoscopic TiO2, inorganic or hybrid photosensitive material, and solid hole conductor, based on solution-printable processes. Organo metal perovskite is a focus of our study. As visible light absorber and electron/hole conductor, it can be form by spin-coating to form a highly crystalline film whose spectral sensitivity can be tuned by changing chemical composition. Combined with a hole conductor SpiroOMeTAD, solid-state cell yields more than 10% conversion efficiency. Anthraquinone-bound thin TiO2 film is other example of photoelectrode for the hybrid solar cell. Combined with crystalline perylene as hole conductor layer the cell generated a high photovoltage of 1.2V. In this cell both of anthraquinone and perylene work as light absorbers. Other many structures of hybrid cell are designed in our laboratory toward realization of full printable technology of high performance hybrid solar cells.

プラスチックフィルム型太陽電池の開発

我々はDSCをフレキシブルなフィルム型光電池にするための技術開発を進めてきました。 現在、世界最高水準の効率をもつフィルム型DSC(厚さ0.4mm)を試作するにいたっています。 色素の色によってカラフルにすることができ、軽いフィルム型にすることで窓ブラインドやパネルにしたり、カバンなどの曲面にも貼り付けて携帯機器の補充充電用素子としての用途が広がります。 この開発には、我々の開発した低温製膜技術(泳動電着法と化成処理による酸化チタン半導体ナノ粒子層の形成)が使われています。 従来のシリコン太陽電池にはないフレキシブル、カラフル性、均一透明性、低環境負荷(グリンサステナビリティー)に加えて、フィルムのroll-to-roll生産による大幅コストダウンを目指します。 電池は多くの部材が組み合わさってできるアセンブリー技術で、産と学の協力が大きな効果を生み出します。特許出願を行う一方、研究に協力してくれる企業との共同開発の準備を進めています。

参照:色素増感太陽電池の公開
http://kuroppe.icrs.tohoku.ac.jp/~masaki/wet_cell/outline-j.htm


曲げられるフィルム電極

重さ2gの名刺大フィルム光電池

印刷によって文字を書き込んだ大面積DSC

新素子“光キャパシタ”の開発

発電するだけでなく、光エネルギーを直接電力として蓄えることのできる新しい薄型素子「光キャパシタ photocapacitor」の開発に成功しました(2004年10月)。この素子には色素増感ナノ半導体層が発電層として、炭素質材料層が蓄電層として内蔵され、一体型の光蓄電可能な電気化学素子となっています。電極は2電極式のもの、3電極式のものの2種があり、後者は前者の高電圧改良型として2005年6月にChem. Cummum.誌にWeb公開されました。シリコン太陽電池が始めてBell. Telephone研究所で1954年に発表されて以来、ちょうど半世紀を経て一体式の光蓄電型素子の開発が始まり、活発化しています。東京大学瀬川研究室(宮坂研と共同研究)では光二次電池の研究が成果を挙げています。


写真:光キャパシタの直列モジュール、出力1.4V

ポリマー材料を用いるフレキシブル光機能素子の創製(物理化学分野)

電荷移動能力に優れるポリマー含有材料の固体薄膜を感光性の有機色素層と接合することによって、優れた量子変換機能を持つ薄膜素子を作製する。ポリマーと無機材料のハイブリッド構造の薄膜も機能発現に用いることで性能の優位性を引き出す。 この技術は、湿式の色素増感太陽電池を置き換える全固体型プラスチック光電素子の高効率化につながる。


写真:カーボン複合材料によって作製したフレキシブルな固体型DSSC

3.光機能界面を用いるDNAのセンシング (ナノメディカルサイエンス分野)

医用工学の分野において、DNAの超微量検出は従来、蛍光標識法と画像解析によって行われ実用化しています。しかしこの方法は高価な設備を要し定量的検出が不得意な問題があります。 一方、電気化学的手法によるDNAの検出は簡便かつ定量的なことが特長です。われわれは色素を標識もしくはインターカレートしたDNA二重らせん体が酸化物電極上で与える増感光電流をもとに、DNAの存在を光電応答作用スペクトルとして検出する方法をはじめて開発しました。 電気的応答は回路で増幅し高い検出感度を得ることができます。 また種類の異なるDNAを作用スペクトルの波形の違いとして識別することで、複数のDNAを同時に定量的に検出することが可能です。 このセンシング法にも電極上のナノストラクチャーがうまく利用され、ナノスペースを利用したDNAのハイブリダーゼーションとその検出に、本技術を応用することが期待できます。


4.感光性ナノ超微粒子によるPhotodynamic therapyの研究(複合新領域)

本研究は、上記で培ったナノケミストリーの技術を医用工学へ積極的に応用する可能性を図って進めているものです。 感光性ナノ粒子の調製、細胞へのインキュベーション、可視光照射による殺細胞効果の観察、を先端医用工学センター川島研究室との協働で、実施しています。 半導体超微粒子を含む感光性ナノ粒子は様々な方法で合成し、これを生体にインジェクションしデイバリーするための安定な分散液の精製を行っています。技術を癌治療に役立てることが1つの目的です。